「羊をめぐる冒険」の翻訳(64)
4 彼女はソルティードッグを飲みながら波の音について語る(4)「遅くなってごめんなさい」僕の後ろで女の声がした。「仕事が長びいちゃって、どうしても抜けられなかったの」
「構いません。どうせ今日は一日何もすることがないんです」
彼女はテーブルの上に傘立ての鍵を置き、メニューを見ずにオレンジ?ジュースを注文した。
彼女の年は一目ではわからなかった。もし電話で年を聞いていなかったら、きっと永久にわからなかったと思う。
しかし彼女が三十三歳であるというのなら彼女は三十三歳であって、そう思ってみればたしかに三十三歳に見えた。もし仮に彼女が二十七だといっていたら、彼女は二十七歳に見えたに違いない。
彼女の服装の好みはあっさりとしていて気持が良かった。ゆったりとした白い綿のズボンをはき、オレンジと黄色のチェックのシャツの袖を肘まで折りかえし、皮のショルダ?バッグを肩からさげていた。どれも新しいものではなかったが、よく手入れされていた。指輪もネックレスもブレスレットもピアスも何もない。短い前髪をさりげなく横に流していた。
目のわきの小さなしわは年のせいというよりはうまれた時から既にそこについているように見える。ボタンをふたつ外したシャツの襟からのぞいている細い白い首筋とテーブルに載せた手の甲だけだ微妙に彼女の年齢を暗示していた。小さな、本当に小さなところから人は年を取っていくのだ。そして拭うことのできないしみのように、それは少しずつ全身を覆っていく。
「仕事って、どんな仕事なんですか?」と僕は訊ねてみた。
「設計事務所よ。もうずいぶん長いわ」
話はつづかなかった。僕はゆっくりと煙草を取り出して、ゆっくりとそれに火を点けた。女の子はピアノのふたを閉めて立ち上がり、休憩のためにどこかにひきあげていった。ほんの少しだけ彼女がうらやましかった。
「いつから彼と友だちなの?」と彼女が訊ねた。
「もう十一年ですね。あなたは?」
「二ヵ月と十日」と彼女は即席に答えた。「彼にはじめてあってから、消えちゃうまでよ。二ヵ月と十日。日記をつけてるから覚えてるの」
オレンジ?ジュースが運ばれ、空になった僕のコーヒー?カップが下げられた。
「あの人が消えてから、三ヵ月待ったわ。十二月、一月、二月。いちばん寒い頃ね。あの年の冬って寒かったかしら?」
「覚えてませんね」と僕は言った。彼女が話すと五年前の冬の寒さが昨日の天気みたいに聞こえた。
“我来晚了,对不起。”从我后面传来了她的声音。“工作时间延长了,怎么也推不掉。”
“没关系。今天一整天我什么事也没有。”
她把伞的钥匙放到桌子上,也没看菜单直接点了橘子汁。
她的年龄咋一看是看不出来的。若不在电话中问她年龄的话,那是肯定永远也弄不明白的。
假如说她是33岁了那她就是33岁了,这样想一想再看上去就会确信她是33岁了。假如说她是27岁了,那你看上去她肯定就是27岁了。
她对服装的喜好都是素气,气质很好。穿着宽松的白色的裤子,把橘黄色格子的衬衫的袖子挽到肘上,皮挎包在肩上掛着。这些都不是新的,但都收拾整理得很好。戒指、项链、手镯、耳环等一个也没有。前脸头发很短很随便。
眼角的小皱纹并不是因为年龄的问题,让人看上去更像是出生时就带来的。透过解开两个扣子的衬衣所能透视到的细白的脖子和放在桌子上的手指甲来看,微妙地暗示出她的年龄。从小的非常细小的地方来看人的年龄在增长。而且就像是不能擦去的污点那样,然后一点点把全身覆盖住。
“你刚才说工作了,现在做什么工作呢?”我试着问了一下。
“设计事务所。已经工作很长时间了。”
并没有连续讲什么话。我慢慢地取出烟,又慢慢地把火点着。弹琴的女孩把琴盖合上站了起来,因中间休息要到什么地方去。也只是一点点她很羡慕。
“从什么时候开始和他成了朋友了?”她问。
“已经十一年了。那你呢?”
“两个月零十天。”她立即回答。“从认识他到他消失,共两个月零十天。是通过查看日记后才想起来的。”
橘子汁送来了,喝空的咖啡杯被拿走了。
“那人消失后等了三个月。十二月、一月和二月。那是在最冷的时候。那年的冬天最冷的吧。”
“我没有记得。”我说。听起来她说的五年前的冬天的寒冷就像是昨天的天气那样。
他们在谈论那位失踪了的朋友。